「強がり」 1. 「新郎新婦、ご入場ーっ!」一の瀬さんの声が高らかに響き渡る。 「おめでとーっ」今夜の主役の二人が茶々丸に足を踏み入れると二次会の参加者達から口々に 祝福の言葉が発せられるのが聞こえる。 「五代先生、管理人さん、おめでとう!」私は心の葛藤を抑え祝福の言葉を二人にかける。 「八神…ありがとう」 「八神さん…ありがとう…」二人が私に気を遣いながらやさしく返事をしてくれる。私は二人 の言葉に黙ってにっこりと微笑む。…心の奥底に潜む醜い感情を押し殺しながら…。 周囲のみんなに祝福されて最高の笑顔を振りまく二人の姿を見るのはやっぱりつらい。 でもこれは私自ら二次会に参加したいといったから。幸せな二人の姿を見れば今度こそ五代先 生のこと、忘れられる。そう思ってた…。 周りではすっかりいつものように宴会が始まり空前の盛り上がりを見せている。そんな中、私 はカウンターで一人ビールを飲む。 …やっぱり忘れられない…。 昔は大嫌いだった管理人さんも…今ではすっかり打ち解けて他愛もない話もできる仲になった。 それなのに…私は…二人がうまくいかなくなることを望んでいる。 そんな自分がますます嫌になる。 一人場違いな雰囲気をかもし出す私に気を遣ってか誰も私に話し掛けて来ない。 「八神さん…」突如誰かが私に話しかけてくる。確認するまでもない、私の初恋を完全に終わ らせてくれた今夜の主役の一人。 「主役がこんなところに来てもいいんですか?」私は絡むようにして隣に座った管理人さんに 問いかける。 「いいのよ、あっちはあの人にまかせとけば」管理人さんがあっさりとこたえる。 わかってる。心優しいこの人が自分のことを気にして様子を見に来てくれたことくらい。 もっと違った形で出会えたなら、この人ともっともっと仲良くなれた。 もっと違った形で出会えたなら、この人に憧れたはず。 それなのに…今の私は、この人の不幸を…願っている…。 「八神さん…あたし…」管理人さんはいつもと違う私の雰囲気に話しかけにくそう。 「いいんです、大丈夫ですから」私は精一杯の虚勢をはる。そうでもしなければ崩れ落ちてし まいそう。 「八神さん…」管理人さんが全てを拒否するような私の言葉に怯む。わかってる、この人に悪 気はない。そもそも私がこの二人の間に無理やり入り込もうとしただけ。それが無理な話。そ れなのに私は勝手にこの場に来て場の雰囲気を悪くするような態度を取ってしまう。結局私は ますます自分の未熟さを思い知らされる。 「管理人さん、あたしがこの子の相手するからもう戻りなよ」気がつくと朱美さんが私達二人 の後ろに立っている。 「でも…」管理人さん、迷ってる。この人は自分は何も悪くないのに自分が悪いと思ってる。 そんな優しさがこの人のいいところであり悪いところ。そんなところが五代先生を惹きつけ… 私をも惹きつける。 「管理人さん、五代先生のところへ戻ってください。今夜は特別な日じゃないですか」私は言 葉を無理やりひねり出す。しかしその言葉は自分でもわかるほど震えてしまっている。 「管理人さん、この子もこういってるんだから」朱美さんがフォローしてくれる。私もこれ以 上管理人さんと一緒にいたくない。これ以上一緒にいると…感情が爆発してしまいなにを言っ てしまうか自分でもわからない。 「じゃあ朱美さん、お願いしますね」そういって管理人さんが戻っていく。本当にどこまでい い人なんだか…。 2. 「あんた、今日何しに来たの?」隣に座った朱美さんがぶっきらぼうに尋ねてくる。 「私は二人を祝福に来たんです」私は自分の言葉に今さらそれを思い出す。 「あたしにはそういう態度に見えないけど」と朱美さん。私はなにも反論する事が出来ない。 朱美さんの言うとおり今の私は二人を祝福する事が出来ない。 「自分なりのケジメって奴、つけに来たんじゃないの?」黙り込んでしまった私に朱美さんが 言葉を続ける。 「幸せな二人の姿を見たら五代先生のこと忘れられるって、そう思ってたんです…」私は素直 に心情を吐露する。管理人さんと話すよりよっぽど自然に言葉がでてくる。 「で、実際どうだったのよ?…まぁ見りゃわかるけど」そういって朱美さんがたばこに火をつ ける。 「なんだか…全然素直に祝福できなくて…」 「そりゃそうよ、あんたは少女漫画の見すぎじゃないの」朱美さんがあっけらかんという。 「私、二人に幸せになって欲しいと思います。でも同時に…別れて欲しいとも…。私、自分で 自分がわからなくて…」私は自分の苦しみを朱美さんに告白する。 「ふーん」と朱美さん。 「あんたが一人で悲劇の主人公を気取るのは勝手だけどさ、五代君も管理人さんもあんたのこ とが気になって楽しめないのよ」 朱美さんの言葉が私の胸に突き刺さる。ふと五代先生の方をみると私のことを心配そうに見つ める五代先生と目が合う。その横で同じように私を見つめる管理人さんとも…。私は愛想笑い をして目を逸らすと、目の前にあるビールを一気に飲み干す。 「わかった?あの二人はあんたのことが気になって仕方ないの」 「…」私はなにもこたえられず沈黙することしか出来ない。 私はここに何しに来たのだろうか。私がここにいるだけで二人を苦しめてしまう…。 「あんた、もう帰んなよ。ここにいてもあんたのためにも二人のためにもならないよ」 朱美さんの言葉に私は考え込む。そして朱美さんのいうとおりかもしれないと思う。 「まぁここにいたいんなら仕方ないけどね…」そういって朱美さんが席を立とうとする。 「私、帰ります」私は朱美さんにそう伝える。 「そう…」 「二人に…よろしくお伝えください…」そういって私は席を立ち茶々丸のドアを開ける。 外に出ると一の瀬さんたちの笑い声が聞こえてくる。夜の坂道を一人たたずむ自分と全く別世 界のよう。駅に向かい歩き出そうとした瞬間、私を呼び止める声が耳に届く。 「八神…」聞き間違えるはずもないこの声。3年間求め続けた人の声。 「五代先生、主役が抜け出てきて女の子と話してちゃまずいですよ」私はわざと明るく振舞う。そんな私に一瞬躊躇した後、五代先生が話しかけてくる。 「八神、今日は来てくれてありがとう。本当に嬉しかったよ」 五代先生の言葉に思わず涙が出て来そうになる。五代先生は…いつも優しい。 「すいません、心配させちゃって…」私は涙を我慢して五代先生に礼をいう。 「八神…」五代先生は言葉が続かないみたい。相変わらず口下手だけどそういう優しいところ が…ずっとたまらなく好き。 「五代先生、管理人さんを幸せにしてあげないとね」 「ああ」 「管理人さん、五代先生のこと本当に好きなんだから…」だんだん胸が苦しくなってくる。 私は涙を堪えきれず五代先生に背を向ける。 「ごめんなさい、こんな日にまで心配させちゃって…」そうつぶやく私の声は明らかに涙声。 「八神…」五代先生が近づく気配がする。でもだめ、ここで甘えちゃあ…。 「来ないでください!」私は五代先生の優しさを激しく拒絶する。 「もう、帰ります」五代先生に背を向けたまま歩き始める。これ以上迷惑はかけられない。 「八神、また今度遊びに来てくれ」五代先生が私の背中に声をかけてくれる。私は…五代先生 の優しさに熱いものがこみ上げてきて返事をすることも出来ない。 しばらく歩いてから私はふりむきたくなる衝動に駆られる。五代先生は見送ってくれているは ずだ。でも…だからこそ振り向けない。私は逃げるようにして走り始める。 3. その後どうしたのかあまり覚えていない。 気がつくと大学の友達と良く行く繁華街を彷徨っていた。変な男達が何人も話しかけてくるが 全て無視しているといつのまにかみな諦めて別の女を捜しに行ったようだ。 私はあてもなく一人歩き続ける…。 ふと気づくと自分が座り込んでいることに気づく。なんだかんだいっても茶々丸で結構飲んで しまった。もともとお酒は強い方ではない。疲労も重なり起き上がる事ができずただ道行く人 波を眺める。そうしているとまた五代先生のことを思い出す。時間を見ると21時。今頃あの 二人はホテルかどこかで甘いひと時を過ごしているのだろうか。それに比べて自分は酒に酔い 町をふらつき、疲れ果てはしたなく道に座り込んでしまっている。 横を向くとビールの自販機が目に入る。力を振り絞ってお金を投入しビールを一本購入し一気 に飲み干す。なんだかいい気分だ。飲み干したビール缶を道端に投げ捨てた瞬間、自分の体が 宙に浮いたような感覚に陥りそのまま何も考えられなくなる。 「気分はどうだい?」誰かがわたしに話しかけてくる。私は今どこにいるのだろうか? 「君、うちのアパートの前で倒れてたんだよ」男が言葉を続ける。 だんだん意識がはっきりしてくる。どうやら自分はベッドに寝かされているらしい。一瞬の後、 そのことの意味を悟り自分の体を確認する。服を脱がされたりしていないようだ。 「私を…どうする気ですか?」恐る恐る尋ねる。部屋の様子をさりげなく確認するとどうやら 普通のアパートの一室のようだ。 「どうもこうもないよ。あんなところで倒れてたらやくざとか怖い人たちに連れて行かれちゃ うと思ったからここに運んだんだ。こんな繁華街で怖いものしらずだねぇ」男が呆れた調子で 話す。どうやら危害を加える気はなさそうだ。 「帰って…いいですか…?」私は思い切って尋ねる。助けてくれたのはありがたいがやはり見 知らぬ男は恐ろしい。 「いいけど…もう午前2時だけど足はあるの?」男の言葉に驚いて腕時計を見ると確かに午前 2時。うちに帰るにも電車も動いていない。と思った瞬間、親の顔が目に浮かぶ。 「電話…貸してもらえますか?」 「いいよ」男がぶっきらぼうにこたえる。私は急いで家に電話をかける。 「もしもし八神です!」母さんがすぐに電話にでる。自分のことを心配して起きていたのは明 らかだ。 「お母さん、私だけど…」 「いぶき!あなたどこにいるの!?」 「大丈夫よ、友達の家で飲みすぎて眠っちゃったの」私はとっさに嘘をつく。 「そう…」母さんはほっとしたようだ。と思った瞬間、電話口が変わる気配がする。 「いぶき、お前という奴は…」父だ。長話になるとめんどくさい。 「お父さん、私は大丈夫だから。明日には帰るからじゃあね」私は電話口でなにやら絶叫して いる父親を無視して電話を切る。 「心配している両親にその態度はないんじゃない?」男が話しかけてくる。 「いいのよ、あれで」いった瞬間、自分がまだ見知らぬ男の部屋にいることを思い出す。 「帰れるの?」男が突如尋ねてくる。 「そ、それは…」私は言葉に詰まる。タクシーで帰ろうにもそこまでの持ち合わせはない。 「無理ならここに泊まりなよ」私は男の言葉をじっくり吟味する。これはどういうことなのだ ろうか?やはり自分をどうにかしようとしているのか。 「別に他意はないよ。おれは深夜喫茶にでも行ってるから朝までここにいればいい」そういっ て男が笑う。私はまだ男の真意が読めない。言葉をそのまま受け取るほど子供じゃないつもり だ。 4. 「疑ってるね」男が私を見ていう。どうやら知らず知らず男のことをにらみつけてしまってい たようだ。 「もしおれが君をどうにかしたいなら君が寝ている間にやっちゃうよ。君には感謝されても疑 われる筋合いはない」男がボソッと口にする。確かに…男のいうとおりだ。 「じゃあどうして私をここまで運んだの」私は一番聞きたかったことを尋ねる。 「女の子が部屋の前で倒れてたらとりあえずなんとかしようとするもんじゃないかい?」 「…」私は返事が出来ず黙り込む。さっきからこの男のいうことは至極最もだ。 「出て行くかい?」男が再度尋ねてくる。しかし自分にはあてもないのは確かだ。今さら父に 迎えに来いとも言えない。しかもこの深夜に繁華街で一人で過ごすのも恐ろしい。 「朝まで時間をつぶさせてもらえますか」私は思い切って尋ねる。力ずくで襲われてもなんと か逃げれるとの判断が根底にある。 「いいよ」男があっさり口にする。 「すいません」私は男に礼をいう。なんだか変な感じだ。名前も知らない男の部屋で朝まで過 ごすことになってしまった。普通なら考えられないことだが本能的にこの男は危険な男ではな いと思う。 「一つ聞いていいかな」男が話しかけてくる。 「なんですか?」 「なんであんなところに倒れてたの?」 「それは…」こたえに詰まり少しずつ記憶を辿る。繁華街を彷徨いビールを一気飲みした後の 記憶がない。おそらく飲みすぎで記憶を失ってしまったのだろう。 「飲みすぎて記憶にないんです」私は素直にこたえる。 「そうかい」男はそれ以上深く詮索しようとしない。 「気に…ならないんですか…」なぜか自分から男に問いかける。 「そりゃあ君みたいなかわいい子のことは気になるけど…話したくないことだってあるだろう」 「若いのにしっかりしてるんですね」 「そんなことはない。さっきも君が眠っている間、自分を押さえるのに必死だったんだから」 そういって男が笑う。つられて私も笑ってしまう。 「やっぱりエッチなこと考えてたんですね」 「軽蔑したかい?」 「いえ、その方が自然です」私は大人ぶってこたえる。いつの間にか男に対する警戒心が消え 去っていくのを感じる。 ひとしきり雑談した後男が尋ねてくる。 「記憶をなくすほど酔っ払うなんて…嫌な事があったのかい?」私はどうこたえようか悩む。 しかしどうせもう会うこともない人だと思うと自然と口が軽くなってしまう。 「私のずっと憧れてた人が…今日結婚したんです…」私は五代先生のことを…その出会いから 全てを洗いざらい話し始める。多分…誰かに聞いて欲しいのだ。誰かに…慰めて欲しい…。 「…結局、私はその人のこと、まだ忘れられないの」私は最後にそうつぶやく。 「本当に好きだったんだね」最後まで聞き遂げた後、男がつぶやく。 「だったんじゃないわ!今でも…好き…」そうつぶやくと涙があふれ出てとめられなくなる。 「そんなに泣かないで…」男が必死に慰めようとしてくれる。しかし、涙が後から後から溢れ 出し止めれそうにない。そんな私を…男が急に引き寄せ抱きしめる。私は一瞬何が起こったか わからない。でも…その大きく温かい胸に…私は抱きついてしまう。 どれくらい時間がたったのだろうか。やっと泣き止んだ私は男の顔を見上げる。 「もう、大丈夫かい?」男が心配そうに私の顔を覗き込む。 「ご、ごめんなさい。私…」私は顔を真っ赤にして男から目を逸らす。 「かわいい顔が台無しだ」男はそういってまだ残る私の涙を手で拭う。 「私、かわいい…?」私、何言ってるんだろう。 「かわいいよ、とっても」男がそういってこたえてくれる。そんな言葉を言われたのは初めて で、その言葉になんだか胸がときめいてしまう。そんな状態で男と至近距離で目が合う。 「キスしていいかな」男が尋ねてくる。 「駄目…」私は言葉で拒否する。でも…自然と目を閉じて…男の唇を受け入れてしまう。 キスって不思議。それだけで…相手の事が好きになってしまったかのよう。 「私は…あなたのことが好きなわけじゃない。あの人のことを一瞬忘れさせてくれるなら…誰 でもいいの」私は男だけでなく自分自身までもごまかそうと言い訳する。 「わかった」そういうと男は…私をベッドに押し倒した。 5. 「んん…」彼が私の唇に吸い付いてくる。私も黙って受け入ると突如彼が私の口の中にまで舌 をいれてくる。 「いやっ!」私は慣れない感覚につい顔を背けてしまう。 「もしかして…初めて…?」彼がびっくりしたような顔をして言う。 「わ、悪い?」私は子供に思われるのが癪でついそっけない態度をとってしまう。 「信じられないな、君みたいな娘が…」彼が呆然とした顔でつぶやく。内心ではめんどくさい と思っているのであろうか。彼にどう思われているのかわからず私は顔を背けたままだ。 「緊張しないで…誰だって最初は初めてなんだから」彼はやさしく声をかけてくれる。 私は顔を背けたまま彼の言葉にうなずく。 彼はそんな私の様子を確認してから一旦私から離れ部屋の電気を消す。すると部屋は暗闇に包 まれ、カーテンからかすかに流れ込むネオンの光でお互いの顔がやっと確認できるくらいの明 るさになる。 「服…自分で脱ぐ?」彼が私に尋ねる。電気のことといい多分私に気を遣ってくれてる。 「自分で…脱ぐわ」私ははっきりした口調でこたえる。 服を脱ぎ始める彼を横目に私はベッドに腰掛けセーターを脱ぐ。続いてブラウスを脱ごうと するが…緊張から指が震えてボタンをはずせない。 (やだ、こんな緊張してるって知られたら恥ずかしい…)私は焦ってボタンをはずそうとする が焦れば焦るほど指が震えてうまくいかない。 「緊張してる?」気がつくと彼がトランクス1枚になって私の前に立っている。 彼の言葉に私は緊張して顔が真っ赤になり俯いてしまう。 「初めてなんだから緊張するのが当然だよ」彼は私の隣に腰掛け、優しく抱きしめながら私を 諭すように言う。 「うん…」私は自分でも信じられないくらい素直にうなずく。 しばらくそのまま抱きしめてくれていた彼が体を離し…私のブラウスのボタンに手をかける。 私は黙って彼の手でブラウスのボタンが一つずつはずされていくのを見守る。全てのボタンを はずし終えると彼が丁寧に服を脱がしてくれる。私は思わずブラだけになった上半身を両手で 覆い彼に背を向ける。やっぱり肌を見せるのは恥ずかしい。 「君の肌…すごく綺麗だよ」彼は安心させるようにそういいながら私を後ろから抱きしめる。 「私の体…子供っぽくない…?」私は小さな声で尋ねる。最近少しずつ大きくなったものの昔 から胸が小さくてよく同級生からからかわれてきた。特に管理人さんの横に行くとあまりの違 いに一瞬ショックを受ける。 「そんなことない、すごく綺麗だよ」彼が改めて私の体を褒めてくれる。 「ありがとう…」現金なものでなんだか嬉しくなってしまう。そして恥ずかしがってばかりい られないと立ち上がりスカートを脱ぐ。 「後悔しないね?」スカートを脱ぎ終えた私に彼が尋ねる。 私は無言のまま彼の隣に座り彼の胸にもたれかかる。 「ほんとにいいんだね?」彼がまた問いかける。私が返事しなかったから不安なのかしら。 「何度も尋ねるのはレディーに対して失礼よ」私は少し気取ってこたえる。 「わかった」彼はそういうとまたもや私をベッドに押し倒す。 6. 彼は私の頭に手を回し逃げれないようにして唇をまたもや重ねてくる。私も彼の背に手を回し 彼を受け入れる。少しすると彼が躊躇しているのに気づく。さっき私に拒否されたから悩んで るみたい。 私は思い切って私から彼の舌に自分の舌を絡ませる。彼は驚きながらも私を受け入れると、私 の舌を嘗め回す。私はどうしていいかわからずなすがままに彼の舌を受け入れる。気持ちいい とかそんな感覚はないけどなんだかすごくエッチなことをしている気分になり体が熱くなって くる。 彼が顔を離し私の顔を見つめてくるとなんだか凄く恥ずかしい。男の人にこんなに至近距離で 見つめられるのは初めてなわけで…。 「ごめんなさい…」私はなぜか謝り、絶対に顔が赤くなってるな、と思いながら彼から目を逸 らす。 「目を逸らさないで…」彼がそういって私の瞳を覗き込む。なんだか全てを見透かされている みたいな気分になる。 「すごく…かわいいよ…」彼はそうつぶやくと今度は私の首筋にキスしてくる。私はなんだか くすぐったくて体をよじる。 彼は私のそんな反応に手ごたえを感じたのかブラの上から私の胸に手を這わせる。 「あっ…」私は思わず声をあげてしまう。 「ブラ…はずすね」彼が器用にホックをはずしブラを抜き取ると、私の乳房があらわになる。 私は反射的に自分の両腕で自分の胸を隠す。 「隠さないで…」そういうと彼は私の両手首を掴みベッドに押さえつける。 「いや…」胸をじっくり見られてしまい私は思わず顔を背ける。管理人さんや朱美さんの胸と 見比べてしまっているため自分の胸に変なコンプレックスが生まれてしまっている。 「とっても綺麗だよ」彼が再び私を抱きしめ耳元で囁く。私の両の乳房が彼の厚い胸板と直接 ぶつかる。 「ほんとに…?」私はつい聞き返す。 「ほんとだよ、おれもう我慢できない」彼はそういうと私の乳首にしゃぶりつく。 「っ・・・!」私は声にならない声をあげる。彼の舌に刺激されてとても心地いい。 「ああん…」私の口から自分でも信じられないくらい、えっちな声が漏れる。気がついたら反 対の乳房も手で揉まれている。なんだかとても気持ちよくてずっと胸を触ってて欲しいと思い はじめる自分に気づく。 彼が逆の乳首を口に含み、舌先で私の感じるところを転がし始めると、私はもう快感を受け入 れ喘ぎ声を発するだけの女になってしまう。さっきまで口に含まれていた逆の乳首もいまは指でつままれたり転がされたりして、すっかり硬くなってしまっている。 彼が愛撫をやめるころには私は息を弾ませながらぐったりしてしまう。 「初めてなのにすごく感じちゃってるね」 「そ、そんなこと…」私は言葉に詰まる。反論したいが今の自分は誰がどう見たって快楽に溺 れてしまっている。 そんな私の様子に彼は私の下着に手をかける。 「だめ…」またもや私は無意識のうちに拒否するがあっという間に下着を脱がされてしまう。 幼い頃に肉親に見られて以来、誰の目にも触れることのなかった自分の秘所が彼の眼前に晒さ れると、私はあまりに恥ずかしく感じ顔を両手で覆ってしまう。 そのままじっとしていると彼が私の下半身に移動する気配を感じる。いよいよ…。私は緊張し 体を硬くする。 「えっ…?」予想と違う感触に思わず驚きの声をあげる。 「そんな…」と私は思わず口にする。しかし彼は…何もこたえず私の大事なところに指を侵入 させ刺激を与えてくる。 「ああ…」私は生まれて初めての感覚に身をよじる。彼の指が私の大事なところを掻き回すと 私の口から甘い喘ぎ声が漏れ始め止らなくなる 「気持ちいいかい?」彼がやらしい口調で尋ねてくるが、私は恥ずかしくて何もこたえられな い。彼が指を抜きやっと解放されたと思ったその瞬間、今度は指が2本私の大事なところに同 時に侵入する。 「やだ…駄目…」しかしそんな私の声を無視して彼の指は私の中で縦横無尽に動き回る。 (気持ちいい…)私は心の中でつぶやく。彼の指の動きで私はなんだか変な気分になってしま う。さっき胸を刺激されたときより強い官能が私の体を走り抜ける。 7. 「そろそろいいかな」彼が指を抜いてつぶやく。なにがそろそろいいんだろうか?既にまとも に働かなくなった頭を使い考えるが見当もつかない。そんなことより正直なところ指での愛撫 を続けて欲しい。などと考えていると彼が私の体にのしかかってくる。 「そろそろいくよ?」彼が私に確認する。私はなんのことかわからないままうなずく。黙って 身を任せれば気持ちよくしてくれるはずとの思いがある。しかしその次の瞬間、今までとは全 く違った感触が私の体を貫く。 「痛い!」私は激痛に声をあげる。あまりの激痛に私の体が震えだす。彼も私の反応に…挿入 を途中で止める。 「や、やめて…」私は痛みを堪えながら彼に懇願する。 「大丈夫?」彼が私に尋ねる。 「大丈夫じゃ…ない…」私は目に涙を浮かべながらこたえる。彼のものはまだ私の中に途中ま でしか入っていない。それなのにこの痛さ…。全て入れられたら痛みで気を失うかもしれない。 「ごめん、おれ興奮しちゃってて一気にいきすぎた」彼が私に謝り自身を私の中から抜く。 「ううん…」私は彼を慰める。そのままじっとしていると徐々に痛みが引いてきたみたい。 「ゆっくりと…少しずつ…して」私は彼に囁く。彼が私のことを大事に扱おうとしてくれてい ることはもう十分わかっているつもり。 「続けていいの?」彼はまだ遠慮してる。 「いいから…。でもゆっくり…ね?」私は無理に彼に微笑んでみせる。 「わかった」そういうと彼は私の両足を開き…彼自身を私の大事なところにあてがう。 少し時間をかけて彼は彼のものをゆっくりと私の中に沈める。 痛みはさっきよりかなり楽になっているがやはり痛い。我慢しているうちに気がつくと挿入が 完了している。私は痛みを我慢するのに彼の両腕を無意識のうちに強く掴む。 「痛いんなら今日はもう…」彼がここまでにしようと私に言う。 「もう少し…このままで…」私はつぶやく。気のせいか痛みが段々引いてきているような気が する。 「でも…」 「いいからちょっと待って」私は彼の言葉を封じる。 「わかった」彼はおとなしく私のいうことを聞いてくれる。 「名前…教えてくれよ」私がしばらく痛みを我慢していると彼が話しかけてくる。 「秘密よ」 「なんでだよ?」 「あなたとは今日一日だけの付き合いだからよ」私が思っているとおり素直に話す。 「どうして?」彼がまた尋ねてくる。 「それも秘密」 「全部秘密なんだな」彼が呆れたようにいう。 「そう、全部秘密よ」私は少し微笑む。 「そんなことより…ゆっくりと動かしてみてよ」 「大丈夫なのか?」 「多分…大丈夫よ」 8. 彼は私の言葉を受けて…ゆっくりと腰を動かし始める。痛みと共に私の中に別の感情がわきあ がってくる。 「あっ…」私は思わず声をあげる。先ほどまでの愛撫により私の体はすっかり感じやすくなっ てしまっていて、彼も私の変化に気づいたみたい。 「もう…大丈夫かな?」彼が不粋な質問をする。 私は黙って彼の目を見つめる。 「じゃあ…」そうつぶやくと彼は少し腰の動きを早める。グチュグチュと私の大事なところが 卑猥な音を立て始める。 「ああんっ!」私の口から甘い喘ぎ声が次から次へと漏れる。女子校時代にクラスで回されて いたエッチな漫画とか絶対嘘だと思っていたけど、今の自分は漫画のヒロイン達と同じように 信じられないほどエッチな声を出してしまう。 「はっ…はっ…」彼の声に彼も興奮している事がわかる。私の体に夢中になってるのかと思う となんだか自信が湧いてくる。 「あんた、初めてなのに感じすぎじゃないか」彼が私をからかうようにいう。 「そ、そんなことないわ…」私は精いっぱいの負け惜しみをいう。でも彼のいうとおり自分で も信じられないほど気持ちいい。 「おれのこれが気にいったかい?」 「何言ってんのよ、私の体はあの人だけのもののはずだったんだから…」 「じゃあ今おれに抱かれて甘い喘ぎ声を出しているのはなぜだい?」 「…」私は思わず黙り込む。彼のいうとおり私は彼に抱かれて…すごく感じてしまっている。 五代先生のことが今でもこんなに好きなのに…。 「ごめん、いいすぎた」彼が謝ってくる。 「いいのよ、気にしないで…続けて」 私の言葉に彼は再び私を責め始める。 彼が腰を動かすたびに私の乳房が揺れる。そしてその乳房も…すっかり感じてしまっている私 の顔も…そして二人がつながっている部分も全て彼の眼前にある。私は、自分の一番恥ずかし い姿を彼に全て見られてしまっていると思うと急に恥ずかしくなってくる。しかし、恥ずかし いと思えば思うほど感じてしまう。 「おれ…もう…」突然彼がつぶやく。彼はどうやら限界みたい。 「なに?女の扱いには慣れてるんじゃないの?」 「あんたみたいにかわいい娘とは初めてだからしかたないだろ」 「こんなときまで持ち上げるなんて立派ね」私は嬉しさを隠してそっけないことをいう。 「とにかくもうやばい」彼はほんとに限界みたい。 「な、中は駄目よ!」私は慌てて叫ぶ。 「わかってるよ」彼は一気に腰の回転を上げる。 「あっあっあっ…」彼の腰の動きに合わせて私の口から矢継ぎ早に声が漏れる。やっぱり気持 ちいい。もっともっと…突いて欲しい…。 でもそんな私の期待は裏切られ一瞬の後、私の太ももに熱い液体がかかる。 「ふぅ…」彼は私の体の上に倒れこみ動きを止める。 実は私も結構疲れてて肩で息をしていたけど、気がつくと汗びっしょりになってる。 9. 「シャワー貸してよ」私は彼に頼む。 「そこだよ」彼が扉を指差す。 「じゃあ借りるね」そういって私は扉を開ける。 蛇口をひねると冷水がでて一瞬寒気がするがしばらくすると暖かいお湯に変わる。 「ふふ〜ん」私は鼻歌を歌いながら肌をお湯で洗い流す。続いて自分の股間を見る。さっきま で彼のものが出入りしていたとは一瞬信じられない。 ギィ… 突然、扉が開き彼が入ってくる。 「ちょっと!」私は彼を非難する。 「そんなにきつくいうなよ」彼はそういいながら私に近づく。 「出てってよ!」私は彼をにらみつける。 「それは無理な相談だ」そういうと彼は私を抱き寄せ唇を奪う。 彼は唇を離すと私を抱きしめる。 「おれはまだあんたを抱きたい」 「えっ…」驚く私の唇が再度彼に奪われる。今度は舌を絡めてくる。困ったことに私は彼に舌 を吸われて感じてしまう。まだ体は興奮したままなのだ…。 「とりあえず外に…」私は彼に一旦外に出るように頼む。 「今すぐここで…」そういうと彼は後ろから私の乳房を揉み始める。 「やだ…」私は彼に抵抗する声をあげる。しかしその声は弱弱しい。彼に唇を奪われ…私自身 も知らぬ間にその気になってしまっているみたい。 「おれの…しゃぶってくれないか?」彼が遠慮がちに言う。 「いやよ!」私は断固拒否する。 「おれとは今日一晩だけの関係なんだろ?だったらいいじゃないか」彼は私の乳首に快感を送 りこみながら頼んでくる。 「いや…」私は彼からの快感に悶えながら拒否する。 「どうしても駄目かい?」 「…」私は言葉に詰まる。なぜだかわからないが彼の言葉を拒否するのが悪い気がしてくる。 私が迷ってる様子に気づいた彼は、私の肩を掴みしゃがませる。すると彼のものが私の眼前に あることに気づく。初めて間近に見る男の人のものは…予想以上に大きい。こんなものが中に 入るんだから痛いはずよね、と一人納得する。 「じゃあ頼むよ」彼の言葉に私は渋々彼のものに手を添える。するとそれだけで彼のものが少 し大きさと硬さを増す。試しに手で擦ってみるとますます大きさと硬さが増す。私は不思議に 思い彼の顔を見上げる。 「君の手と口で…気持ちよくしてくれないかな」 「口で…」私はつぶやく。やはり男の人のものを口にするのは抵抗がある。しばらく躊躇して いるとそんな私の態度に業を煮やしたのか、彼は私の顔を彼のもので叩く。 「わ、わかったわ…」私は仕方なく彼にそう伝える。 恐る恐る彼のものを口に含む。彼のものは既に口に全てを含むには無理な長さであったが口に 含むと更に一回り大きくなったような気がする。そしてそんな彼のものの反応に…私の中の女 が騒ぎ始める。 私はよくわからないまま彼のものを口に含み舌で舐めまわす。 「ううぅ…」彼が喘ぎ声を出す。 (なんだこんなことで感じちゃってるのね)私は逆に勢いに乗る。 (口だけで終わらせちゃうんだから)そう思って口にくわえたまま頭を動かしだした瞬間…彼 のものが軽く震え、精が放出される。 10. 「んんー!!」私が思わず口を離すと私の口の周りと頬の辺りに彼の精がかかってしまう。 私はあわてて吐き出しシャワーのお湯で顔を洗う。 「何すんのよ!」私は彼を激しく非難する。 「ごめん、その我慢できなくて…」彼が頭をかきながら謝る。 「信じられない、顔にかけるなんて…」私は冗談抜きで怒りが湧いてくる。 「すまない、わざとじゃないんだ」そういって彼が私の機嫌を取ろうとする。 「そりゃわざとじゃないでしょうけど…」私は一瞬言葉に詰まる。確かに状況からしてアクシ デントかもしれないと思い直す。 「でもちょっと早すぎでしょ!?」私はとんでもないことを知らぬ間に口走る。 「そんなこと言われてもおれのを口にしている君の顔をみていたらすごく興奮して…」 「とりあえず出て行ってよ、もう満足でしょ?」私は彼に背を向ける。 「それがまだなんだ」 「えっ?」私が振り向くと…彼のものが早くも自己主張をはじめていることに気づく。 「ちょっと…」私はその光景に呆然とする。 「だって君…ずっと全裸なんだよ?」彼の言葉に自分を見ると確かにそうだと気づき胸と股間 を隠す。そんな私に彼が近づき肩に手をかける。 「なによ、また口でやらせる気?」私は呆れた口調で尋ねる。 「違う」彼は首を振る。 「じゃあなによ?」 彼は不満げな私を引き寄せ抱きしめて耳元で囁く。 「君をもう一度抱きたいんだ」 「そんな…」私は彼の言葉に顔が真っ赤になる。まだやりたいというのか…。 彼は顔を赤くした私の隙をつき私の体を反転させる。 「ちょ、ちょっと待ってよ」私は悲鳴をあげる。 しかし、彼は私の言葉を無視して彼のものを私のお尻に擦り付ける。 「あんたのせいですっかり硬くなっちまったよ」彼が私の耳元で囁く。 「一人でおっ立ててなさいよ」私は精一杯の皮肉をいう。しかし彼が私の胸を揉みしだき始め るとまたもや為す術もなく甘い喘ぎ声をだしてしまう。自分の中の女が彼を激しく求め始めも はや制御できない。いつの間にか無意識のうちにお尻を彼のものに擦り付けてしまう。 「おれのが…欲しいんだろ?」彼に囁かれると私は…思わずうなずいてしまう…。 「じゃあ股を開いて…」彼の言葉に私は股を開く。 「体を倒して両手を壁について…」私は気持ちよくなりたいという欲望に負け、もはやなんの 躊躇もせず彼の言葉に従う。情けないことに先ほどからの一連の愛撫により体の方はすっかり 男を求めてしまっている。 「こんな犬のような格好はいや…」私は思わずつぶやく。 「犬みたいな格好が一番感じるんだよ」私は彼に好きなように弄ばれているような気がしてあ まりに恥ずかしく黙り込む。しかし彼の言葉に反発するどころかますます期待に胸を震わせる 自分に気づき思わず呆然とする。 そんな中…彼が私の腰を掴み一気に貫く。 「ああっ…」私はその快感に…思わず声をあげてしまう。 「じゃあ、いくよ」そういって彼が腰を動かし始める。 パンパン… 狭い浴室に肉と肉がぶつかり合う音が響く。 「くっ…」私はなんとか声を抑えようとする。でももう無理。 「ああ…気持ちいい…」私はつい思ったことをそのまま口にする。だって気持ちいいんだから 仕方ない。初めてなのに自分がすっかり快楽のとりこになってしまったことに気づく。 「名前…教えてくれよ」再度彼が名前を聞いてくる。 「いぶき…」言った瞬間しまったと思ったが言ってしまったものは仕方ない。 「いぶきの中…相変わらず最高だよ」彼がつぶやく。 「ああ…すごくいい…」先ほどより遥かに強い快感に私は我を忘れ無意識のうちによがり声を あげ彼にこたえる。 「いぶき、中に出してもいいかい?」彼がとんでもないことを言う。 「だ、駄目よ…」しかし私の声が驚くほどに小さい。 「君を初めて抱いた日だから…君の中に出したいんだ」彼がわけのわからない理屈をいう。 「だ、駄目…。中に…出さないで…」私は彼に懇願する。 11. 「いぶきの体はあの人とやらだけのものじゃないんだ!」彼はそういうと腰の回転を早める。 「そ、そんな…」私は思わず呆然とする。逃げようにも彼にしっかりと腰を掴まれているため 逃げることは不可能だ。 「それじゃあ一気に…」彼は終わらせる気になったようだ。 「…」私はもうなにも言えない。彼が見も知らないはずの五代先生にやきもちを焼いているの に気づいてしまったから。それに変なことを言ってここでやめられたら困る。実際彼に貫かれ る快感で足が震えだし立っていることも辛い。 「いぶき…」彼が私の名をつぶやく。彼が今日一番激しく私を突き始めた瞬間、私は一瞬意識 を失ったような感覚に包まれる。 「あああっ…!!」私はその瞬間、今までで一番高い喘ぎ声をあげる。 「うう…」彼もうめき声を上げ…私の中に精を放出する。 ドクドクッ 私はおぼろげな意識の中、彼の精が私の中に注がれるのを感じる。 中に出されたショックより性的な満足感で胸がいっぱいになる。 「ほんとにもう会えないのか?」彼が私に尋ねる。 「そうよ。私はあなたのことが好きなわけじゃない。あの人のことを一瞬忘れさせてくれるな ら誰でも良かったの」私は迷いなくこたえる。 「おれは本気で君のこと…」 「それ以上言わないで。もしも運命ならばまた会えるはずよ」そういって私は彼に微笑む。 「そうか…」彼ががっくりとうなだれる。 そんな彼に私は近づき…黙って口づけを交わす。 「色々あったけど…あなたに会えてよかったわ」私は彼の耳元で囁く。 「おれは忘れないよ」彼が私を抱きしめ囁く。 「ありがと。それじゃあね…」そういって私は彼から離れ手を振る。 「絶対会えるって信じてる」彼はそういって手を振る。 彼の言葉に私はにっこり笑って部屋を出る。 週明けの月曜日、私は大学に向かう。先週の結婚式のとき、今年から自分と同じ大学に通うこ とになった郁子ちゃんの世話を五代先生と管理人さんにお願いされてしまった。彼女とも以前 少し対立したことがあるが、先週打ち解けることが出来た。私は待ち合わせの約束をした学部 の事務室に向かう。すると彼女はもう来てることに気づく。 「八神さーん」郁子ちゃんが私に元気に声をかけてくる。私は彼女に手を上げ合図する。 「郁子ちゃん、元気?」 「元気ですよ、今日から憧れの大学生活かと思うと」郁子ちゃんはご機嫌だ。 「じゃあお昼食べに行こうか、案内するわ」そういって私が先に行こうとすると郁子ちゃんが 私を呼び止める。 「八神さん、もう一人連れて行っていいですか?午前中の入学式で隣に座ってた奴なんですけ ど、こいつも学校のことあんま知らないようだから」郁子ちゃんがそういって男の名を呼ぶ。 「なんだよ、音無。いいって言ってんのに」男が一人めんどくさそうに現れる。 「まだそんなこと言ってんの?諦めて付き合いなさい」郁子ちゃんが男を嗜める。 「まったくおせっかいな奴だな」男がはき捨てるように言う。しかし…私はもうその男、いや 彼から目が離せない。 「えと、こちらがあたしのちょっとした知り合いで1年先輩の八神さん、そんでこっちは…」 郁子ちゃんの言葉が続いているがもう私の耳には入らない。 「運命ならまた会えるはず…でしたっけ?」彼が私に尋ねる。 「な、なんのことかしら…?」私はとぼける。…胸の動揺を押し隠して。 「よろしくお願いします、八神”いぶき”先輩!」彼がそういって頭を下げる。 「なんだ礼儀正しいんだ」郁子ちゃんはご機嫌だ。 「じゃあ、食事に行きましょう」私はとりあえずそう言い歩き始める。 「は〜い」郁子ちゃんが元気に返事をする。 ひょんなことからあっさりと再会を果たした二人。動き始めた運命の歯車は一体どこに行くの であろうか…。 「Y1 強がり 完」